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魔女のすみか

六命のセルフォリーフやアンジニティ&コミュニティについてあれやこれしたりそれするブログです

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12目の日記はこちら

ENo431いるかちゃんの日記とリンクしてます【http://sheep.me.land.to/6may/11ddd.html】

ベッドの上で体を起こすと叱責が飛んでくる。
私にとっては良くある事。だけど、いるかちゃんには大事。
そういえば、いるかちゃんが教会に来てから倒れた事ってなかったっけ。
発熱、寒気、めまい、軽い頭痛。
うん、大丈夫。ただの風邪だ。
慣れない旅の疲れが出たんだろう。
むしろ心配なのは。
窓から見える陽の位置を確認する。高く昇る最中。
いるかちゃんの位置は確認するまでもなく、椅子の上。
今、そこに居ては間に合わない。
 
「いるかちゃん、そろそろ支度しないと……」
 
「はい?」
 
何を言われたのか理解していないような反射的な返答が返ってくる。
どうやら、いるかちゃんの頭の中からあの約束は抜け落ちてしまっているようだ。
きっと、私のせい。
 
「パナドさん達との約束よ。今から出れば、まだ間に合うでしょう」
 
それは、ちょっとした賭け事。
知り合いの青年とたまたま依頼先で遭遇して、お互いの力を試すことになった。
この世界の生物達と闘うのが本戦であれば、まあ練習試合みたいなものかな。
伊藤パナド。
浅黒い肌に癖毛の髪。白檀の香りを漂わせ、そつの無い立ち振る舞いに言葉回し。彼のような人の事をまあ魅力的な男性と言うのだろう。
賭けを持ちかけてきたのは彼。
そして、乗ったのは私。
賭けって言われるとつい、熱くなってしまう。
勝った方が負けた方の言う事を聞く、そんな単純な取り決めをしたのはいるかちゃん。
そして、勝ったのも私達。
ちょっと困ったことになった。勝ったときにして貰いたいことが無かったのだ。
だから、いるかちゃんに決めて貰う事にした。罰ゲームとか得意そうだし。
買い物に付き合って貰う、代金はパナドさん持ちで。いわば、デートのようなものだからきっと彼も不快には思わないだろう。いるかちゃんの加減次第だけれど。
罰ゲームとはいえ、それは約束だ。
 
「は……? 何言ってんの、こんなときに! 今日はそれどこじゃないじゃん!」
 
「でも、約束は約束だし。私ならほら、もう大分楽になってきたわ。だからね?」
 
約を違えれば信を失う。
ひとたび失われたそれを取り戻すには、多大な労力が必要になる。いや、いくら頑張っても取り戻せないこともある。
私なんかにかまけてそのようなことがあってはいけない。
別の日にする、と言う選択肢もあるけれど、この世界も広い。また、イツお互いに会えるか分からない。
 
「……解ったよ」
 
渋々と言った声色、不満げな視線に起こし上げた体を支えながら小さく笑みを返す。
小さく息を吐いて、外出の支度を始めるいるかちゃん。
納得はしていないようだけど、理解はしてくれたようだ。
 
 
「いるかちゃん?」
 
「なーに」
 
しばらくぼーっと、着替えを眺めていたが気になることがあり、問いかける。
 
「これって一応、デートなのよね」
 
「どーだろ」
 
「……スカートの方がいいんじゃないかしら」
 
「いや、いーでしょ。気合い入れてきましたーって見られるのも、何かね。嫌じゃん?」
 
「そう?」
 
そういうものなのだろうか。
てっきりデートというのもは気合いを入れて臨むものだと思っていたけれど。
私などにはとうてい理解も及ばない、駆け引きというやつだろうか。
 
「嫌いじゃないんだけどさぁ……」
 
嫌そうな顔。
 
「だけど?」
 
「何か苦手なんだよね、あのタイプ。苦手……っていうのも、ちょっと違うんだけど」
 
「そうなの?」
 
嫌いじゃないけど、苦手。
うーん、わかりそうなわからないような。
というか、いるかちゃんに苦手なタイプがいたのが驚きだ。
 
「ジャブ任せのラッキーパンチャー」
 
なるほど、わからない。
 
「いるかちゃんの言うことって……時々難しいのよね」
 
「馬鹿の捏ねた理屈ってそういうもんさ」
 
まあ、こういった機微はいるかちゃんの方が得意だから色々と感じ取っているのだろう。
私が疎すぎるだけかもしれないけれど。
頭の中で考えを巡らせていると、いるかちゃんが髪の毛をまとめ始める。
支度を終わらせそうな雰囲気だ。
 
「あ、お化粧は?」
 
「んー、別に崩れてないし」
 
「駄目よ、そんなの。私の鞄に確か……」
 
相手が相手なのだから、ある程度は対抗しないと。
きっと、今日も計算された無造作な髪にワインレッドのマフラーを首に巻き香水の香りを漂わせながらいるかちゃんを迎えるに違いない。
きまってる、というやつだ。
 
「あああァッ、もーいいから! 解った、何、どれ取るの、これ!?」
 
動こうとする私を制して、私の鞄から手早くポーチを取り出す。
いけない、いるかちゃんの気持ちも汲み取ってあげないと。こんな私なんかを心配してくれているのだから。
 
「ごめんなさい。こっちに座って。私が直してあげるから」
 
荒れそうになる呼吸を押し殺す。
でも、気づかれた。
だから、言葉は返ってこない。
 
「ほら、こっちの色の方が可愛いわ」
 
少し考えた後、口元を塗り替える。
返ってきたのはやはり言葉ではなく曖昧な笑み。
目を覗き、手を伸ばす。小さな反応。そして、奪う。
奪ったのは黄昏色の視界。サングラス。
 
「この色だと、これは似合わないわね」
 
「……はいはい」
 
「……あ」
 
「……ん?」
 
「時間!」
 
視界に入った時計が示すのは約束の時間。
遅刻すると言うことは、自分の時間が増える代わりに相手の時間を奪うこと。
だから、少しでも急がなくちゃいけない。
 
「はいはい、解ったから! ていうかイッちゃんこそちゃんと休んでよ! 着替えて、飯食
って、寝る! いい!?」
 
「私のことはいいから、……!」
 
いるかちゃんを追い出した反動で咳が出る。
そうすると、追い出したいるかちゃんが戻ってくる。
やっといった、と咳をすれば財布を忘れたと戻ってくる。
そんなことを繰り返し、私が安心して咳をすることが出来るようになるまで十五分の時を要した。

 
ENo3199伊藤 パナドさんの日記に分岐します【http://blog-imgs-44.fc2.com/a/s/t/astan/panado11a.html】

 
咳をしても一人。
音のない空間に、乾いた咳だけが響き渡る。
一人になる状況を作り出したのは私。
孤独というものはいつでも人が自らによって作り出すものだ。望もうと、望まざると。
いるかちゃんは今頃パナドさんと合流して、買い物をしている頃かしら。
予算を超えるほど買ってはいないかしら。
何か迷惑をかけたりしてはいないかしら。
自分の心配性に、小さく笑みを溢れる。弱っているから、余計に心配になっていると言うこともある。
でも、一番心配なのは……いるかちゃん、楽しめているかしら。
予算を超えるほど買っていてもいい、何か迷惑をかけたりしてもいい。楽しめているのなら。
でも、私の事を気にして楽しめていないようなら。
熱を帯びた肌に汗が滲む。熱い。
私が言うのも何だが、いるかちゃんの中で私が占める大きすぎる。
同じ孤児院にいたからか。それだけじゃない。
行き倒れた所を教会へ引き入れたからだろうか。それだけじゃない。
私の何がいるかちゃんの心を埋めたのかは分からない。
ひょっとしたらずっと分からないままかもしれない。
私は分かろうとしているだろうか。
汗を布が吸い取る。肌に張り付く。気持ち悪い。
とはいえ、分からないなりに何とかしなければいけないと思う。
解決出来ればそれに越したことはない。
解決出来なければ、何か代わりのものを見つけて欲しい。
できるだけ早く何とかしないと。
そう遠くないうちに私はいなくなる。
頭が締め付けられる。苦しい。
自分勝手な考えだろうか。
こんな考えを表に出すことなくこれからもいるかちゃんと過ごしていくんだ。
別れの時まで。
私は。
世界がぐるぐる回る。切り離される。
これまでもこれからもきっと私は孤独で。
望もうと、望まざるとも。
 
 
 
深く沈んでいた意識が、浮かび上がる。
ゆっくりと目を開く。
少し眠っていたようだ。
体の抵抗を表す熱も落ち着いている。
呼吸が楽だ。
大分、良くなった。
ゆっくりと、体を起こす。まだ無理は禁物だ。いまは、一人だし。
とりあえず、着替えようかな。
寝ている間にかいた大量の汗を服が吸い取っていた。
ベッドから降りて、服を脱ぎ始める。
と、同時に
 
「んー、そだねー……と、イッちゃん帰ったよ!」
 
勢いよくドアが開け放たれる。
籠もった空気が、新鮮な外気にかき混ぜられる。
少し気持ちが良い。
ドアに目を向けると、いるかちゃん。
そして、その後ろにはパナドさん。
 
「おお」
 
感嘆の声。
 
「え……」
 
ワンテンポ遅れて気づく。今の自分の姿に。
 
「きゃああああ!?」
 
あ、こんなに大きな声を出したのは久しぶりかも?
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